業界用語といえば、職場内でしか通用しないものから芸能界で使われているものまで数多く存在します。ただ、タクシードライバーが口にする業界用語には「おばけ」や「ワカメ」など、一見するとタクシーとは無関係のようなものも。そこで今回は、タクシードライバーが無線で話す際に使う業界用語のうち、代表的といえる3つをピックアップしながら、タクシー業界の実状についても紹介します。
「おばけ」と聞くと、なんだか薄気味悪い感じがしますよね。でも、タクシードライバーにとっては臨時ボーナスともいえる、むしろ「ありがたい」お客さまを指す業界用語なのです。
最近では、デフレの影響もあり、飲み会の帰りにタクシーを使う人が減っています。また、企業も深夜残業をさせないように方針転換しているため、以前に比べて遠距離を利用するお客さまが少なくなっています。そうしたことから、滅多に出会わない遠距離客のことを「おばけ」と呼ぶようになったのだとか。ちなみに、地域によっては「幽霊」「一発」「飛ぶ」とも呼ぶそうです。
ひと口に遠距離客といっても、人によって目的地は違うもの。そのため、どこからが遠距離になるかは曖昧なところでもあります。ただ、全国で事業者数トップの都内における初乗り運賃が410円なので、10,000円前後であれば「おばけ」に相当するといえるでしょう。
ちなみに、10,000円の目安は日中の運送で約35kmにあたり、例えば新宿駅から乗車すると埼玉県の所沢駅まで向かうことができます。タクシードライバーにとって「おばけ」は上客である反面、10,000円を稼ぐ大変さも垣間見えますよね。
「大事な忘れ物」も、よく使われるタクシー業界用語のひとつ。といっても、ただ車内に忘れ物をしたという意味ではなく、どちらかといえば危険性を表す業界用語といえるでしょう。
タクシードライバーは、営業中に車内でトラブルに巻き込まれたり、走行時に事故や事件を見かけたりした場合、無線を通して「大事な忘れ物」と報告します。これは、あえて言葉を換えることで、自身を守る手段にもなるのだとか。ちなみに、同類の業界用語には、タクシーごと逃走する容疑者を指す「大きな忘れ物」、不審なお客さまを例えた「カバンの忘れ物」などもあります。
タクシードライバーにとって「大事な忘れ物」と遭遇しないに越したことはありませんが、備えあれば患いなし。タクシードライバーは万が一に備え、社内での防犯対策・防犯講習に参加したり、護身アイテムを所持したりしています。タクシーの東京大手四社のひとつ「大和自動車交通」では、全車両にGPSと無線を搭載するほか、ドライブレコーダーによる自動録画も実施。このような24時間体制の防犯機能が、高い効果を発揮していることで知られています。
最後のタクシー業界用語は、タクシードライバーにとって天敵ともいえる泥酔客を指す「ワカメ」です。あわせて、タクシードライバーの泥酔客対策も見てみましょう。
まれに極度の泥酔で“千鳥足”になる人もいますが、実際にタクシー業界では、その状態をユラユラと揺れる海藻に例えて「ワカメ」と呼んでいます。また、ワカメには諸説あり、地域によっては海藻をもじった「回送タクシー」のことを指す場合もあるそうです。そのほか、泥酔客の業界用語で、ゲテモノを略して「ゲテ」と呼ぶ地域もあるのだとか。
もし泥酔客と遭遇した場合、タクシードライバーから乗車を拒否することもできますが、やはり歩合制である以上、お客さまを何度も逃すわけにもいきません。では、泥酔客をどう対処するのでしょうか。
まずはドライブレコーダーを活用し「証拠」をしっかりと押さえます。そうすることで、泥酔状態特有の「記憶忘れ」に対応でき、仮に話がこじれた場合には法的措置において高い効力も発揮してくれます。一方、のっぴきならないほど泥酔しており、タクシードライバー自身に危険性があると判断した場合は、前途のとおり警察に「大事な忘れ物」というサインを送ることも。
タクシードライバーが警察へ通報するレベルかどうかは、基本的に個々の判断になります。タクシー会社に泥酔客用のマニュアルは存在しますが、不文律に近いもののようです。「できるかぎり否定はしない」「(気分を損なわせないために)泥酔客の話に合わせつつ料金請求の事実を伝える」「所在確認をする」などが主なものとして挙げられます。
今回はたった3つの業界用語でしたが、それらの意味を知ることで「意外とタクシー業界の現状までわかった」という人もいるのではないでしょうか。タクシードライバーを目指す人は、就職し実際の業務を行えば、新たな業界用語を学ぶことになるでしょう。お客さまと自らの安全を守りつつ、快適に仕事を進めるうえで欠かせない業界用語。経験を積むなかでボキャブラリーが増えていくのは、楽しみのひとつになるかもしれません。
参考:
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