近年の訪日外国人の増加に伴い、タクシーを利用する外国人の数が増えています。外国人に対応できるタクシードライバーを育成するため、政府、タクシー会社、団体一丸となって、さまざまな取り組みを行う動きが目立ってきました。
では実際に、訪日外国人に対応できるタクシードライバーとなるために、どんな研修が実施されているのでしょう? ここでは、実際の事例をもとに、外国人対応の研修内容について説明します。
外国人対応、とひと言でいってまず思い浮かぶのは「英会話」ではないでしょうか。
もちろん、世界共通語である英語やそのほかの外国語でコミュニケーションがとれるようにはなるのは大切なことです。ですが、ただ英語が話せるだけでは「おもてなし」としては少し実力不足。日本語で接客をするときは、お客さまの希望を聞いたり、雑談をしたり、おすすめのお店を教えたりするなど、お客さまが快適に過ごせるように心配りをするでしょう。それは外国人のお客さまでも同じことです。特に、外国人は日本の習慣や地理に不慣れなことが多いので、なにかと質問を受ける機会も増えるはず。そうしたときに対応の仕方を知っていれば、円滑に仕事をすることができ、また新しいお客さまを得やすくなるでしょう。
実際、訪日外国人を迎える最初の場所となる国際空港では、外国人対応の研修を修了したタクシードライバーのみが入れるレーンを設けているところもあります。羽田国際空港のタクシー待機所では、外国人旅客接遇研修修了者専用レーンというものがあり、外国人旅客接遇研修を受けた証である修了証の携帯が入構の条件となっています。
また、観光ガイドに特化したタクシーとして「観光タクシー」の需要も増えているようです。政府や自治体も、それぞれに外国人対応を行う観光タクシーの育成に力を入れてきています。国土交通省が発表している全国のタクシーのおもてなし制度推進計画に関する資料では、北海道から沖縄まで、英語で接客できるタクシードライバーの育成が多くの県で計画に取り込まれています。
タクシー会社には、企業内研修として英会話力を身につける機会を提供しているところもあります。そのほか、個人で参加できるオープンな英語研修を行っている機関や企業もありますので、必要に応じて活用しましょう。
英会話学校のアイザックでは、タクシー会社向けの英語研修として「タクシードライバー社員向け接客英語研修」というコースがあり、実践力を重視した会話中心の英語研修を提供。講師をタクシー会社に派遣する社内講習型、または社員が教室に通う通学型があり、どちらも観光案内ができるほどの高い英会話力を目標にして、ネイティブ講師がレッスンを行います。
タクシー会社で研修を受けるのも選択肢の1つですが、さらに多くの時間を勉強に費やしたい場合や、個人的に英語対応を勉強する場合、個人で参加できるタクシードライバー向けの英語研修を行っている機関や企業を利用するのもおすすめです。たとえば、公益財団法人東京タクシーセンターでは、東京のタクシードライバー、タクシー管理者向けの訪日外国人に対応するための接遇研修を行っており、事業者を通じて申し込めばだれでも参加できるようになっています。
公益財団法人東京タクシーセンターの外国人旅客接遇研修を一例として、研修内容や期間を見ていきましょう。
この研修では、外国人の習慣を理解したり、タクシー営業に必要な会話を英語でできるようになったりするために、初級、中級、上級の3段階で学習します。研修にはICレコーダーなどの持ち込みも可能。受講後に発音やリスニングの復習に役立てることができます。
具体的なカリキュラムは以下の通りです。
1. 日本とのマナー・文化の違い
2. 基本的な発音と会話練習
3. 中級のおさらい
4. 基本的営業会話の応用
5. パスポートをなくした、交通渋滞など緊急時の対応
どのコースも、必ず2人1組などのグループを作って、実際に状況を想定して英語で会話をするロールプレイングの練習があり、実践を意識したものとなっています。料金は各級2700円、時間は各級1日で3時間程度。初級から上級まで受講してもわずか数日程度しかかかりません。上級まで修了すると、終了証が交付されます。
ただ、語学学習は継続が大切。研修を受けっぱなしにするのではなく、何度も繰り返し復習することで身につきます。同センターでは、自宅での学習用に「英語でおもてなし講座」のDVDや英語発音レッスンのCD などの教材も販売しているようです。
公益財団法人東京タクシーセンターでは、研修修了者が受けられる「外国人旅客接遇英語検定」も設けています。所要時間は10分程度で、受験料は7560円です。なんとも短い試験に思えますが、これは英語でのタクシーサービスに関する接客力をはかるもので、あいさつから始まり、外国人のお客さまの乗車を想定したロールプレイングを行うという英会話に特化したもの。10分も英語で話し続けるのは容易ではありません。ロールプレイングの内容は、研修で使用している教本と、DVD、CDなどの教材がベースとなっています。あいさつと自己紹介で1~2分程度、ロールプレイングが5~6分程度です。
また、「旅客接遇」のための検定なので、表情や身だしなみ、振る舞いや、声の聞き取りやすさなども評価されます。タクシードライバーならではの検定といえそうです。
リンク:大和自動車交通株式会社
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